鋳鉄と含有炭素の真実

鋳鉄と含有炭素の真実(要約)

はじめに

鉄冶金の発達は、文明の進歩と密接不可分の関係にあります。また鉱石から金属鉄を遊離させる還元剤として古くより炭素が用いられてきたことを思えば、鋳鉄および鋼鉄と炭素の間にも深い因縁があります。炭素の含有量が0.1%単位で上下すると鉄鋼の機械的特性が劇的に変わるため、炭素含有量の正確な測定は鉄冶金において非常に重要な問題です。しかしながら鋳鉄が含む炭素量は、しばしば誤測定されるのも事実。試料が粒状性質であることや、黒鉛の中に存在する不規則な炭素粒子が誤測定の原因となります。このような誤測定は試料を入念に準備することで防ぐことができるものの、再現性と信頼性を伴った測定結果を得るためには高次元の技術と経験が欠かせません。

19世紀には、鉄と炭素の複雑な相互作用について研究がなされてきました。そこで実証されたのは、鉄鋼の結晶質の粒状構造が、機械的特性を始めとする金属のさまざまな性質に甚大な影響を及ぼすこと。この粒状構造は炭素含有量によって大きく左右されるため、炭素の密度を適切かつ厳密に管理する能力は鉄鋼の製造工程において必要不可欠なものとなるのです。

鉄鋼に含まれる炭素の測定

1980年代まで、炭素含有量を測定する標準的な手段といえば燃焼法でした。それに加えて1960年代から広く普及してきたもうひとつの方法が放電源の火花や白熱を用いた発光分光分析で、なかでもスパーク放電発光分光分析は燃焼法よりも全体の測定が短時間で済むという魅力があります。

スパーク放電発光分光分析の大きな利点は、炭素だけではなく鉄冶金における他の重要元素も測定できること。窒素、ケイ素、硫黄をはじめ、マンガン、ニッケル、クロムなどの合金化元素も測定が可能です。こうなるともはや燃焼法による分析の出番はないようにも思われますが、炭素含有量が多いとき、試料を採取する技術によって結果が大きく左右するという問題を発光分光分析は抱えています。とりわけ試料の採取に際しては、黒鉛が含まれないよう慎重におこなう必要があります。鉄鋼分析の試料採取は単純ではありません。試料は通常、溶解した材料のほんの一部を使用しながらも、できるかぎり材料全体を代表するものでなくてはならないからです。

また、試料が凝固する冷却速度も非常に重要です。黒鉛は正確な計測を妨害する可能性がありますが、発光分光分析によって炭素を分析する際、急速に冷却することで黒鉛の混入を減らすことができます。試料の状態が発光分光分析の結果に及ぼす影響について示した<図1>をご覧ください。

3つの鋳鉄を試料として用意し、「ゆっくり」「非常にゆっくり」という2種類の冷却速度で、炭素総量3.7%の典型的なねずみ鋳鉄を測定しました。この<図1>は、典型的な発光分光分析の結果を示しています。

<図1>

Sample % C (OES) % C (combustion)
1 (nearly white) 3.54 3.623
1 (grey) 3.19 3.679
Difference 0.350 -0.056
8 (nearly white) 3.58 3.589
8 (grey) 3.29 3.664
Difference 0.290 -0.075
16 (nearly white) 3.52 3.599
16 (grey) 3.15 3.666
Difference 0.370 -0.067

発光分光分析とねずみ鋳鉄――分析上の問題

実際に炭素量を計測する前には、その準備段階としていわゆるプレスパークやプレ燃焼をおこなうのが一般的です。プレスパークは数千回に及ぶ高エネルギーの火花からなり、実計測の前に試料の表面を融かして均質化することを目的としておこなわれます。これはよくHEPS(高エネルギー・プレスパーク)と呼ばれる技術です。しかし残念ながら、黒鉛の破片などが不規則に混入している場合、実計測がなされる前にプレスパークが黒鉛の一部またはすべてを気体に昇華させ、炭素量が実際よりも少なく計測されてしまう原因になります。

そこでSPECTROLABは、発光分光分析技術の進歩を活用し、プレスパーク段階における炭素発光のシグナルを監視できるようにしました。このシグナルは不規則な黒鉛の存在をつきとめ、黒鉛の影響を最小限に留めるような分析上の条件を選択するために利用されます。試料の質が良ければ、それだけ測定結果の質も上がるのが分析の常。このアプローチでは統計的な手法も用いながら不良な試料を自動的に見つけ出します。

プレスパーク段階で炭素発光を検査するのに最適なスペクトル線はスペクトルの紫外領域にあり、他の元素と非常に近寄っています。プレスパークは数秒で何千ものデータポイントを生成するので、そのシグナルの扱いやデータの処理を緻密におこなわなければなりません。このアプローチで機器の側に求められるのは以下の点です。

  1. 精密に制御され、常に一定のスパーク条件を再現できること(スパーク光源)
  2. 発光スペクトラムの紫外領域における良好なパフォーマンス(UVパフォーマンス)
  3. 非常に高度な光学的分解能と、極めて近接した輝線を正しく読み取る能力(分光)
  4. 計測結果の緻密な処理(データ処理/読み出しシステム)

プレスパーク段階で炭素量を計測するために適したスペクトル線はC148.2であり、内部標準としてFe149.7を用います。本例におけるプレ燃焼では、読み出しシステムがスパーク5000回分の明度情報を10回ひとつのパケットにまとめました。つまり5000回のスパークから500パケット分の明度情報が得られたことになります。黒鉛をまったく含まない試料についておこなったプレスパーク段階の明度パケット測定値を<図2>に示します。

<図2>

安定局面である700スパーク(70パケット)の後に、パケット明度が安定化を見せました。しかしながら質量濃度0.5%の黒鉛を含む試料では、<図3>で見られるように状況が異なっています。

<図3>

この<図3>のケースでは、最初の安定局面を過ぎた後、150パケットに到達するまで炭素の明度が平均値を上回っています。

統計に基づくアプローチを用いることで、このデータから不規則な黒鉛がどれくらい存在するのかを示す指標を抽出することができます。指標が規定値を下回っていたら、通常推奨される193nmの輝線と、内部標準として適切な鉄の輝線(例えば187.7nm)を使用しながらそのまま分析を続けます。また本レベルと規定値限度の間にある場合は、C148とFe149の輝線をペアで用いて算出することで選鉱がなされます。

このような測定方式の改善により、ねずみ鋳鉄と白鋳鉄が示す試料上の相違は小さくなり、結晶構造の違いが原因でみられる誤差が大幅に減少しました。ねずみ鋳鉄の試料から得られる結果も、燃焼法による分析の結果とより好ましい一致をみるようになっています。

Sample C% (conventional method using C193nm) C% (improved method using C148nm) C% (combustion)
1 (almost white) 3.54 3.63 3.623
1 (grey) 3.19 3.64 3.679
Difference 0.350 -0.010 -0.056
8 (almost white) 3.58 3.66 3.589
8 (grey) 3.29 3.62 3.664
Difference 0.290 0.040 -0.075
16 (almost white) 3.52 3.69 3.599
16 (grey) 3.15 3.68 3.666
Difference 0.370 0.010 -0.067

結論

この測定方式は、発光分光分析装置「SPECTROLAB」が誇る最先端の性能を活用し、鋳鉄に含まれる炭素量を特定する精度を向上させるものです。試料の採取法が原因となる誤測定は大幅に減少したため、当方式の計測結果と燃焼法による分析結果との誤差はほとんどありません。粗悪な試料は自動的に見つけ出され、分析結果から除外されていきます。

この測定方式は特許取得出願済みです。