スクリーニング分析に対するスペクトロの回答

TURBOQUANT – スクリーニング分析に対するスペクトロの回答

蛍光X線分析(XRF分析)の大きな利点は、試料調整などの事前準備をほとんどせずに試料をそのまま測定できること。しかし残念ながら、試料のマトリックス(検出元素を含む物質全体)が分光計の蛍光強度計測に影響を及ぼす通称「マトリックス効果」が分析精度を損なうという問題がありました。あらかじめマトリックスの正体がわかっている場合や、マトリックスの整合が可能な場合には、様々な経験上の技術を駆使することで、マトリックス効果がもたらす誤差を補正する方法もあります。しかしまったく未知の物質をスクリーニングする場合、このようなアプローチはほとんど役に立ちません。

励起とマトリックス干渉のメカニズムは高度に解明されています。そのため試料の状態を数学的に算出することで観測スペクトラムから濃度を解析できるのが蛍光X線分析の強みですが、このような目的のために作られた市販のプログラムの多くは、較正用に「FP法(ファンダメンタル・パラメーター)」のアプローチを採用しています。標準試料を必要としない「スタンダードレス方式」と呼ばれるプログラムの大半は、合金、酸化物、水、油など、マトリックスがあらかじめ定義された試料だけにしかうまく援用できないのが実情でした。

スペクトロが開発したプログラム「TURBOQUANT」も、FP法のアプローチに基づいた分析をおこないます。しかしそこにコンプトン非干渉性散乱線の情報を利用することでさらに改良を加え、マトリックス補正を一段と強化した点が画期的です。

試料のマトリックス組成が何であるか詳細にはわからない場合でも、ソフトウェアに試料の物理的な状態(個体、粉末、液体のいずれか)を入力するだけでOK。まったく未知の試料を標準誤差10%以内の精度で分析することができるのです。もちろんマトリックスを事前に特定することができる場合(例えば有機物のみ)には、分析精度もさらに上がります。

蛍光X線分析

蛍光X線分析による定量分析で使用される較正方法を充分に理解するため、まずは典型的な試料から観測された蛍光スペクトルの特徴を例にとって、その結果が定量情報の精度にどのような影響を与えるかを考えてみることにしましょう。

蛍光X線の基本的なメカニズムはよく知られています。適切な光源(通常はX線管)から発せられる活動的なX線が試料に作用し、突き抜けることで試料の原子と相互作用を生じさせます。原子に充分なエネルギーがあれば電子が内殻から放出され、この放出でできた内殻の空孔を埋めるために、外殻から他の電子が移動します。この遷移が過剰エネルギーを生み出し、原子のエネルギー特性を示す蛍光X線として排出されるというメカニズムです。

被分析物濃度と蛍光強度の計測値は理論上比例するものの、まったく未知の試料を分析する際には直線的な相関関係が確認できないこともあります。そこで二次励起や、X線の吸収・増大・散乱などのいくつかのマトリックス効果が補正される必要があるのです。

TURBOQUANTは、未知の割合で存在する干渉要素が、通常の蛍光X線分析を阻害するという問題を克服するため、スペクトロが開発したFP法に基づくプログラムです。

TURBOQUANTは、使い勝手のよいFP法較正と、普遍的なマトリックス補正の利点を組み合わせ、未知の試料をスクリーニングするための理想的な較正法を実現しました。実際の分析に取りかかる前に注意すべき点は、較正アルゴリズムの精度がピーク強度計測の正確さに比例するということです。とりわけ元素の軽いマトリックスを扱ってピーク強度を測定する際に、スペクトルのバックグラウンドが誤測定の主な原因になり得ます。

TURBOQUANTの性能

TURBOQUANTは非常に適応性の高い較正プログラムで、まったく未知の試料に対しても標準誤差10%以内という分析精度を導き出すことができます。事前に必要なのは、その試料が固体か、粉末か、液体かという情報だけ。この性能を実証するため、既に組成がわかっている8種1組の標準スラグ(鉱滓)で蛍光X線分析装置「SPECTRO XEPOS ED-XRF」を較正し、その後で別に用意したスラグ試料を使って4種類の異なる較正法をテストしました(図1)。

(図1)較正タイプの違いによる精度の比較

実際の濃度 [%] エンピリカル法による検出濃度 [%] コンプトン法による検出濃度 [%] FP法による検出濃度 [%] TURBOQUANTによる検出濃度 [%]
MgO 16.8 ± 0.4 17.16 ± 0.05 17.20 ± 0.05 17.01 ± 0.05
Al2O3 7.05 ± 0.08 6.33 ± 0.03 6.83 ± 0.03 6.37 ± 0.03
SiO2 38.5 ± 0.2 38.83 ± 0.06 36.42 ± 0.06 38.42 ± 0.06
CaO (32.7) 31.14 ± 0.06 33.18 ± 0.06 32.85 ± 0.06 34.19 ± 0.16
Fe 0.59 ± 0.05 0.515 ± 0.004 0.526 ± 0.004 0.495 ± 0.004 0.623 ± 0.005

標準偏差がほぼ同一条件である場合には、エンピリカル法(実証法)がマセマティカル(数学的)なマトリックス較正よりもやや正確な値を示しています。しかしながら、例えば土壌のように異なったマトリックス内に含まれる試料をスラグ較正で分析すると、その状況はがらりと変わります(グラフ9)。結果からわかるように、エンピリカル較正を使用した場合には濃度が明らかに実際よりも過大に算出されており、全体で見るとTURBOQUANTの分析結果の方が実際の濃度に近い値を出しています。

この認証実験が示すことは、狭い範囲内でプロセスを管理された試料に対してはエンピリカル法が満足のいく分析能を発揮するものの、それよりも幅広い範囲の分析に対処しなければならないラボにとっては、充分な柔軟性を備えていないということです。その上、ある種のマトリックスにはまだ較正の基準が存在しないものもあります。より柔軟性の高いTURBOQUANTはラボの適用範囲を大幅に広げ、 同時に多くの品質管理業務の必要条件を満足させる精度水準に達しています。

実例

試料の種類や組成が極めて多様でありえるような状況で、環境試料をスクリーニングするのはもっとも難しい分析業務のひとつです。例を挙げるなら、家電廃棄物、汚染された土壌、セメント窯で使われる代替燃料など。代替燃料の状態は、単層の液体、多層の液体、エマルション(乳液)、スラッジ(汚泥)、粉末状、固体と多岐に渡ります。

ICP発光分析用標準液を混合して作った合成多元素試料を分析すると、単層の液体は分析が容易であるとわかります (図3)。

(図3)ICP発光分析用標準液(メルク社)を混合して作った合成多元素試料の分析結果

元素 実際の濃度(mg/g) 計測濃度(mg/g)
Ag 100 105 ± 5
Bi 100 107 ± 2
Ca 100 86 ± 3
Cd 100 118 ± 5
Co 100 104 ± 3
Cr 100 88 ± 4
Cu 100 104 ± 1
Fe 100 94 ± 2
Mn 100 103 ± 2
Ni 100 99 ± 1
Pb 100 102 ± 2
Zn 100 101 ± 1

一方、多層の液体から有意義な分析結果が得られない場合には、試料を均質化しなければなりません。同じ合成多元素試料とグラファイト(黒鉛)の粉末を混ぜて固め、ペースト状の物質をSPECTRO XEPOSで計測しました(図4)。

(図4)同じICP発光分析用標準液(メルク社)の混合液をグラファイトに混ぜた場合の分析結果

元素 実際の濃度(mg/g) 計測濃度(mg/g)
Ag 100 72 ± 5
Ca 100 (200)*
Cd 100 113 ± 5
Cr 100 87 ± 4
Cu 100 88 ± 1
Fe 100 (161)*
Mn 100 89 ± 2
Mo 100 111 ± 5
Ni 100 93 ± 1
Pb 100 89 ± 2
Sn 100 92 ± 5
Zn 100 92 ± 1

上記の分析に使用されたSPECTRO XEPOSは、偏光を含む様々な励起のオプションに幅広く対応できる極めて精巧なEDXRF分光計です。通常、試料はラボに持ち込まれて分析装置にかけられます。

結論

スペクトロが開発したTURBOQUANTは、定評のあるFR法のアプローチに加え、コンプトン散乱線の情報を利用することでマトリックス干渉を算出し、マトリックス効果を自動補正する機能を備えた蛍光X線分析用の較正プログラムです。このプログラムによってマトリックス組成の詳細な知識は不要となり、ソフトウェアに試料の状態(固体か粉末か液体か)を伝えるだけで、まったく未知の試料に対して相対的な誤差が10%以内という分析精度を達成しています。標準液が入手できる場合や、マトリックス組成が限定されたものであるとわかっている場合には、この分析精度はさらに増し、従来のエンピリカル較正に近い精度を得ることもできます。

いまやSPECTRO XEPOSなどの分析装置を通常の品質管理に用いながら、まったく未知の試料物質を検査できる能力をラボに備えておくことも可能なのです。